「Guten tag! ミナサン~コーンニチハー! シツジクンハ、キョウモ、ウツクシィー!」


ドイツからいらしたセルマン先生。
初老の男性なのに、ピンクのジャケットにグリーンのデニムを履いていて目がチカチカする。


「マリーカ♪」


テノールボイスを響かせ私を抱き締める。
だけど正直オッサンに抱き締められても嬉しくないのよね。


チッと心の中で舌打ちをして「先生、お元気でしたか?」と笑顔をみせてあげるのは、お父様の友達サービスよ。


先生は、日本語が得意でない。通訳は柏原がしてくれている。

今日も、私には理解不能な言語で二人は、にこやかに会話を進めていく。


「お嬢様、先生は今回の来日で"イチマルキュー"という場所を見学されるそうです」


「イチマルキュー?」

なにかしら?
何かの実験施設みたいな名前……どこかで聞いた事もある気がするけど。


柏原は、先生の荷物を受け取り。セルマン先生には、近寄らないように、サッと身を翻した。




「チョットマッテクダサーイ。カレハ?」


セルマン先生の視線の先には、部屋の隅で丸くなる竜司がいる。


「彼は、私の友達の竜司です」


すかさず、柏原が何かを呟いた。


「リュージー……」


竜司は、カタコトの発音で自分の名前を呼ばれて


ゆっくりと振り返った。