五条の方は、暫く何も言わなかった。
ただ、レオを真っすぐに見るだけ。
レオも視線を一切逸らさず、五条の方を見る。
どのくらいそうしていただろう、かなり長い時間のようにも感じたが、どちらも目を逸らすことなく時間だけが過ぎていく。
ついに、五条の方が折れた。
「ようくわかった。
そないに桑姫に付きとうないなら、付かずともよい。」
にらめっこは、レオの勝ちで終わった。
桑姫には別の者が付くように薦め、レオはようやく解放された。
五条の方の部屋を出ると、思ったよりも太陽が傾いていた。
宴の時間は日没前の酉の下刻(暮六ツともいう、午後6時)からなのだが、夕日になりかけの太陽がレオを焦らせる。
宴の前に柚姫の所に行かなくてはならない。
もしかしたら、もう会っている時間がないかもしれないという考えがレオの頭を過ぎり、早足で柚姫の許に向かった。
柚姫の部屋の前には、広崎局一人が居て他の侍女はいなかった。
レオが近づいていくと、一度部屋の奥にいってしまった。
それからすぐに部屋から出て来て、レオに一言、
「決して間違いなど起こされまするな。」
と注意して足早にその場を後にした。
広崎局と入れ替わるように、レオが中に入る。
上座に座っていた柚姫は、レオの姿を確認して安心したように微笑んだ。


