「そなたも知っての通り、我が娘、桑姫や。
して、そなたに頼みたい事やけんどな。
桑姫の守役に就いてほしいのやえ。」


五条の方はさも当然というように言った。


予想通りの言葉に、思わずため息がつきたくなる。


「そなたは、柚の守役やったけんど…。
あの娘も、明日には隣国の守槻に輿入れしてここにはおらん。
次の役目を、わらわが直々に決めたろう思うたんや。」


感謝しなさいな、と五条の方は続ける。


レオは苛立ちがふつふつと沸き上がるのを抑えて、


「畏れながら、先程お殿様より明日からの新しい役目を頂戴致しました。」


と抑揚のない声で言った。


五条の方の眉間に一瞬、皴が寄ったが、すぐに元に戻り、五条の方も負けじと言い返す。


「ほう。
何の役目をもろうたんや。」


「…剣術の指南役と、足軽大将という役目を頂戴致しました。」


「はて…。
それは異なこと。
剣術の指南役は矢吹ではあらしゃりませぬかえ?」


「…お殿様の仰せでございますので。」


はん、と五条の方は鼻で笑う。


公家の娘である五条の方は、元々の身分が高いせいもあって、篤景を完全に尻に敷いているのである。


篤景の言った事など、簡単にひっくり返せるということだ。


「この者は、わらわの守役になど就きとうないのでしょう。」


これまで黙っていた桑姫が口を挟んできた。


「姉上の守役であったということは、どうせ姉上と懇ろになって他のおなごは相手にせぬということじゃ。」


「はっ。
大方、柚が誘ったんやろ。
そうでなくては、かようなおなごの所にいつまでもなどおるまいに。」


レオが何も言えないのを良いことに、五条の方と桑姫による、柚姫の悪口合戦が始まってしまった。


レオはなるべく顔を上げないようにしていたが、それはあくまで怒りを抑えるため。


それに気づきもしない勘違い女二人は、いつまでも根も葉も無い柚姫の悪口を続けるのだった。