「奥向方一ノ姫様御守役杉松忠純、剣技に優れ、また功績も、此在り。
よって禄高百五十石加増の上、足軽大将及び剣術指南役の任につくべし。」
小姓は良く通る声で紙に書かれたものを読み上げた。
矢吹はその間、ずっと悔しそうにレオを睨んでいた。
「そなたの家は、本来なれば足軽大将ではなく勘定奉行の家柄であるが…。
忠純は、この矢吹に五度も打ち勝ったそうだな。
矢吹、これはまことか。」
矢吹は唇を噛んで下を向いたまま肯定した。
「それもあり、また、姫が外出の折に、野武士や盗賊など姫を捕らえて一儲けしようとしていた忌ま忌ましい者どもを、見事撃退したとも聞く。
その功績を認め、足軽大将及び剣術指南役の任を与える。」
レオは一度頭を下げ、
「ありがたき幸せ。
精一杯励みます。」
と返事をした。
ただし、禄高や役職の事などちんぷんかんぷんだったが。
「話はそれだけじゃ。
今宵の姫の門出の宴がそなたの最後の任となる。
励めよ。」
「は。」
篤景は立ち上がり、部屋を後にした。
殿様がいなくなった部屋は重苦しい空気に包まれる。
矢吹も重い腰を上げ、部屋を出ようとする。
レオの近くに来たところで、矢吹はレオの身体を強く押し、
「お前さえいなければ…!」
と睨んできた。
レオは特に動じることなく、じっと前を向いていた。