水面はぐにゃりぐにゃりと曲がって、写し出すものを変えていく。
水面が曲がるのをやめると、写し出されたのは、この世のものとは思われない程美しい女。
柚姫様も奥方様も、十分に美しかったが、この女の容姿は、何処か人間離れしたもので。
漆黒の髪に紫の瞳。
真珠のような白い肌。
深紅の唇はやや口角を上げて、妖艶な笑みを。
空恐ろしいほどの美貌に、忠純は目をそらすことができなかった。
「はじめまして。」
妖艶な笑みを崩さずに話すその人に、忠純は成す術などなかった。
「だ、誰だ…」
「魔女よ。
世界と世界の間に住む、この世でただ一人の魔女。」
「魔女…。
物の怪か。」
「あら嫌だ、失礼な騎士様だこと。
お侍様って言った方が良いかしら?」
「そなた…」
忠純は思い切り魔女を睨む。
「そんな怖い顔をしないでほしいわね。」
そう言う魔女は、楽しそうに笑っていた。
忠純は、腰の剣に手を伸ばす。
「そなた、何をした。」
「ちょっと魔法をかけただけよ。
貴方とその身体の持ち主に。
しばらくしたら元に戻してあげるから、せいぜい愉しませて頂戴。」
「ふざけるな!」
忠純は剣で桶を真っ二つに叩き切った。
魔女の姿はもう見えないが、声だけは不気味にも聞こえてくる。
『物騒ねえ。
その桶は迷惑料として私が直してあげるから、その剣は納めなさい。
ただ、私を愉しませてくれれば、それでいいのよ。
愉しませてくれれば、ね。』
それから、魔女の声は聞こえなくなった。


