BUBUBUBUBUBUBUBUBUBU……

 その日の仕事が終わり、帰宅しようと車に乗ると、バックの中で携帯が震える音がした。
 「はいはい、今出ますよー」
 発進する前だったので、迷わず携帯を手にして、着信欄を見る。
 『秋原幸介』
 「……さっきのメールについてかな? ……もしもしー?」
 心の中でメールでも返しておいたほうがよかったかな、ちらっと思う。
 (無視したわけだしなー。でも、返せば返したで、別のことで騙されそうだったし)

 『もしもしって、戸塚? 何やってるわけ、こんな時間まで』

 電話に出ると、久々に聞いた、前と変わらず男にしては高い声が返ってくる。

 「何って……仕事だけど?」
 『だったら、そう連絡しろって。』
 なんだか苛立ってる相手の声に、なんとなく嫌な予感がする。
 「あ、あの。秋原?」
 『あ、もしかしてまだメール読んでない? 東京に来たって』
 「いや、読んだけど ―――― 今日さ、エイプリルフール、だよね?」

 だから、本気にしてなかったんだけど。

 最後になるにつれて、段々と小さくなる声。音が何も伝えなくても、電話の向こうで彼が呆れ顔をしているのが想像できた。

 『…………』
 「秋原?」
 『そっか、今日ってエイプリルフールだったっけ』
 ため息を付く秋原に、本当に忘れてたのかと思う。
 毎回、人のこと引っ掛けてたの忘れたの? そう言おうとすると、先に相手の声がした。

 『戸塚に逢うことだけ考えてたから忘れてた』