カエルと魔女の花嫁探し

 これは昼間に水晶球で確かめたことで、嘘ではない。悪しき者ではないから、結界もセレネーの魔法までは防げなかったのだ。

 悪魔はちらりと修道院を見上げ、にたりと笑った。

「言われてみれば、あそこから漏れ出る神気が一番強いな」

 セレネーも悪魔に合わせて笑みを作る。

「そうでしょ? 結界を破るのは難しいと思うけれど、窓の外から彼女に誘惑の言葉を投げかければ、自ら結界を解いて窓を開けてくれるわ」

「ほう。あやつは欲らしい欲を持たぬ聖女。その聖女が惑わされる言葉とはなんだ?」

 好奇心に悪魔の目がぎらつく。
 さらにセレネーは一歩悪魔に近づき、「それは――」と口を開きかけて、言葉をとめる。

「ああもう、虫が邪魔ね。なんでアタシ狙い撃ちで来てるのよ」

 そう言いながら再びセレネーは自分の周りを手で払う。

 ――次の瞬間、悪魔がセレネーの手首をつかんだ。
 グッと力が加わり、思わずうめき声を出してしまった。

 ポロリとセレネーの手から、銀の針がこぼれ落ちた。

「これはなんの真似だ?」

 悪魔は小さく舌なめずりすると、見下したように目を細める。

「大方、その針に聖水でも塗ってあるのではないか? それで私を刺して、動けなくするつもりだったのだろう?」

 セレネーはわずかに目を逸らし、眉間を寄せて苦悶の表情を作る。

「フンッ、人ごときの浅知恵など通用せぬ。さて……この私を謀ろうとしたのだ。覚悟はできているだろうな?」

 ククク、と悪魔の喉からかすれた笑いが聞こえてくる。
 その様をセレネーは血の気の引いた顔で見上げ――。