セレネーは薄く笑い、流し目を使う。

「修道院の人から聞いたけれど、貴方はフレデリカを自分の物にしたいのよね?」

「その通り。あの神の御使いのような美しさ、是非手に入れたい」

「ふふふ……アタシね、フレデリカの知り合いなんだけれど、ちょっと彼女に恨みがあるの。だから貴方に彼女の弱点を教えてあげるわ。結界の退け方も、彼女を堕落させる秘密も――」

 こちらを舐めるように見回し、ニヤニヤと悪魔は笑う。だがその目は笑っておらず、いつでもお前の命を奪えるのだと語っている。

 ほんの少しでも悪魔に弱さを見せてしまえばつけ込まれる。
 早まりそうな鼓動を抑えつつ、セレネーは修道院の庭へ視線を送った。

「ここで話をするのもなんだから、あそこへ行かない? 貴方と違って、アタシはずっと魔力を出しっ放しで空に浮かび続けてるから大変なのよ」

 本当は半日ぐらいなら飛び続けられるのだが、わざと悪魔の自尊心をくすぐって油断を誘ってみる。
 しばらく考えてから、悪魔は「よかろう」と偉そうにうなずいた。

 庭へ着陸すると、セレネーは悪魔へ近づく。背筋には脂汗が滲んでいたが、それを悟られぬよう涼しい顔をしてみせる。

 ふとセレネーは立ち止まり、煩わしそうに手を振った。

「嫌ね、虫がまとわりついてくるわ。刺されて痕にならなきゃいいけど……」

 そうつぶやきながら、セレネーは悪魔の目前に立った。

「今、フレデリカは修道院の最上階、西側の角部屋にいるわ。強力な結界を張って、貴方に抗おうと神に祈りを捧げているの」