不敵な笑みを浮かべた後、セレネーは顔を少しかたむけてカエルと顔を合わせた。

「王子、あなたの力を借してくれる?」

「もちろんです。でも、カエルの私に出来ることなど……」

「カエルだからこそいいのよ。アタシが悪魔に話しかけて興味を引くから、王子は――」

 セレネーが小声で伝えると、カエルの顔が青ざめていく。しかし「分かりました」とうなずき、フードの中へ潜っていった。

 しばらくして、涼やかな夜風がやむ。
 入れ替わるようにして、ざらついた生ぬるい風が吹き、セレネーの肌がヒリヒリとした。

(……近いわね。どこかしら?)

 セレネーはゆっくりと辺りを見渡す。

 と、南の上空から、コウモリのような翼を持った青年――悪魔が現れ、修道院へ近づいていった。
 月明かりに照らされた彼の顔は青白く、どこか背徳的な色香が漂っている。

 ホウキを飛ばし、セレネーは悪魔の隣に並んだ。

「こんばんわ、悪魔さん。ちょっとお話してもいいかしら?」

 気だるげに悪魔は振り向き、口元に歪んだ笑みを浮かべた。

「ほう……魔女よ、余の眷属になりたいのか? 見たところ、人間にしては良い魔力を持っている。見目も悪くない。余の下僕となるには申し分ないな」

「違うわよ。相手が悪魔でも人間でも、誰かの下で働くっていうのは性に合わないもの。ただアタシは貴方と話がしたいだけ」