宿へカエルを呼び寄せた日の夜。
 延々と部屋でむせび泣くカエルの横で、セレネーは気疲れからベッドへ突っ伏して脱力していた。

 いつもなら落胆しながらでもカエルをなだめられるのだが、今回ばかりはその余裕がない。むしろ自分が泣いてしまいたい。

「……こんなに王子の解呪が難しいとは思わなかったわ。ここまで期待をことごとく裏切られちゃうと、人間不信になりそう」

 セレネーがぼやくと、カエルの号泣がやんだ。

「すみません……私の呪いを解くのために、セレネーさんを振り回してしまって」

「謝らないでよ、王子が悪い訳じゃないんだから」

 セレネーは首の向きを変える。
 泣きやんで紅玉のような目のカエルと視線が合い、小さく苦笑してみせた。

「また明日から新しい乙女を探しに行かなくちゃね。世の中にはまだまだ乙女はいっぱいいるんだから、これぐらいでめげていられないわよ」

 自分へ言い聞かせるように話をしていると、カエルはセレネーに向かって頭を下げた。

「これ以上セレネーさんに迷惑はかけられません。……今までありがとうございました。自分の呪いは自分で解いてみせますから――」

 咄嗟にセレネーは体を起こし、立ち去ろうとしたカエルを上から手で押さえつけた。

「カエルの足で、どこまで歩けるって言うの? 王子ひとりじゃあ、あちこちさまよって野垂れ死にするだけよ。アタシは王子の呪いが解けて喜ぶ顔を見たいんだから、死なれたら困るわ」

「でも……」

「気にしないでよ、アタシが好き勝手やってるだけだから。王子が一生カエルのままでいいって言うなら引き止めはしないけれどさ……元に戻りたいんでしょ?」