さらりと言われて、一瞬意味が分からなかった。


 こんないきなり誘われて、断るかそうじゃないかと言ったら……


「うん。いい、けど……」

 断れないに決まってる。


 予定を先に聞かれたら、しかも特にないって言っちゃったのに、断れるわけないでしょ!?


「じゃあどこ行く? ナツ、どっか行きたいところある?」


「あたしは…特に……」


「んじゃ、俺考えとく。でも、ナツが土曜日までに行きたいとこ出てきたら言ってくれな!」


「うん…分かった」


 どんどん進んでいく話に、あたしはついていけず、ただ適当に返事をするだけだった。




 そして、デート当日。


 あたしは鏡の前で髪を巻いていた。丁寧に、丁寧に……


 巻き終えた髪を、横を向いたりして確認する。

 巻けてないところはないか、変になっているところはないか……


 ……て、何また気合い入りまくりみたいになってんのよ?


 鏡の中の真剣な顔と目が合って、あたしはうなだれた。


 顔を上げて、鏡の中の自分をもう一度見てみる。


 上下ともおろしたての服に、ネックレスなんか付けて、髪は緩くだけど、完璧な巻き髪。化粧だって、平日のベージュ系のナチュラルメイクじゃなくて、ピンク系のアイシャドウを使って、チークも塗って……


 これじゃ今日が楽しみで楽しみでしょうがなかったみたい。


 違うそんなつもりは全然ない。


 別に、デート云々って言う前に、休日に出掛けるんだから、いつもと違って当たり前じゃない。服だって、このためだって買ったわけじゃないし。あたしが欲しいから買って、あたしが着たいから着るのよ。うん。


 あたしはまるで自己暗示のように、自分にそう言い聞かせて頷いた。




 さてと、とりあえず待ち合わせになってるから、そろそろ行こうかな。


 別にこれだって仕方なく行くのよ?自分でした約束なんだから……


 自分の行動に、いちいち言い訳をしながら、あたしは用意をして家を出た。