「うちの従業員の友達なんですよ。バイト終わるまで待ってるんです」


店長が説明すると、男は納得して頷いた。


「ふーん。そうだったのか。従業員ね。どうせ彼氏だろ? 若くて可愛い子は、彼氏がいるんだよなー。ちぇっ。もう、いいや。大将、お勘定して」


「はい、レジはあっちです」


絡んできた男も店長もレジの方へと向かっていった。


男は花音のことを彼氏と勘違いしたまま帰っていった。


私がここ一ヶ月、この店に通うようになった理由は友達のためじゃない。


遠藤さんのためだ。


また、会いたくて来ることを期待して、ここでこうして待っている。


その甲斐空しく遠藤さんはあれから一度も姿を現さない。


夜9時になったら上がる花音を待ちながら、遠藤さんに思いを馳せる日々が続いていた。


腕時計を見ると、8時を回っていた。


今日は、もう来ないかもしれない。


深いため息を吐く。


目の前に置いてあるウーロン茶の氷は溶けてグラスは汗をかいていた。


グラスの水滴を人差し指で触ると、ぬるぬるしていた。


音が出るかと、グラスを強く擦ってみた。


キュッ、キュッと、かすかな音が響く。


そんな時間潰しをしてから今度は鞄の中を漁ってみることにした。


これといって特に何もない鞄の中を見てみると、携帯のランプが点滅していた。