「何です?」


遠藤さんの言葉を受けて答えたのはいいけれど、私の声はかすかに震えていた。


動揺を悟られまいと平静を装って遠藤さんの顔を見る。


「僕からのプレゼント、受け取ってくれる?」


「プレゼントって……唐揚げ……?」


微笑む遠藤さんに私は聞き返した。


「そう。花音ちゃん、彼女にそれを」


花音は遠藤さんに促されて唐揚げの皿を私の席のカウンターの上に置いた。


そうして、バーのマスター気取りで遠藤さんを片手で指して、かしこまって「あちらのお客様からです」と言った。


遠藤さんは安心したように、私の前を通り過ぎて行った。


それから、皆のいるレジの前に行き支払いを済ませて出入り口の戸を開けた。


ずっと、その姿を目で追う。


皆を先に通した後、最後に出て行く。


戸を閉める時、こっちを見た。


気のせいか、瞳の奥を白く輝かせて口の両端を上げて純粋な顔して笑っているように見えた。


この笑顔は誰に向けられたものだろう?


私だろうか?


戸は閉められて遠藤さんは帰ってしまった。


あんな素敵な人がいるなんて、世の中、捨てたもんじゃない。


また、会ってみたい。


そして、じっくり話してみたい。


そんな風に、余韻に浸りながら唐揚げにレモンを絞った。