私は新月の日の朝に生まれた。

それはつまり、最後の月が死んだ朝に生まれたということだ。
新月の日に生まれた子は不吉なもの、民を害する存在として、徹底的に無視をされて育つ。
親元から3歳で自立し、独りで生きていく。
森の中で自分で寝る場所をつくり、木の実をかじって食いつなぎ、人をめったに見かけない場所で、独りで。
名前もなく、存在も無視される……どこにもいない人間。
今、語っている「私」という言葉の意味、存在も知らなかった。
いないも同じだから、私は不吉でもなく民を害することもできない。
居ないものは何もできない。

それが正しい在り方なのだ。
独りが当然だったから、他人と関わることに興味すら覚えなかった。