満月の日だった。
ナフィが庭に出てくる夕方、私は神殿に行った。
今日はナフィの13歳の誕生日だった。
ナフィはいつもの巫女服にたくさんの飾りをつけて、透明な布のようなもの(後で知ったが、それはベールというものらしい)を頭からかぶっていた。
ナフィの誕生日にはいつも様子を見に来ていたが、今日だけはいつもと様子が違う。
格好もそうだ。
なにより、ナフィは落ち込んでいるように見えた。
なにかをしきりに気にして、考え込んでいるようにも見える。
ナフィは庭の端にうつむいて座り込んだまま、動こうとしなかった。
いつもナフィの近くをうろついている神官も、今日は少し離れた場所でナフィの様子をうかがっていた。
気になって少し近づいてみようと、立ち上がった時、突然の風が吹いた。

「きゃあっ」

短い悲鳴が聞こえ、思わず声の上がった場所を見ると、窓から花瓶を取ろうとしていた神官の手から花瓶が落ちようとしているのが見えた。
その落下地点を思い、ぞっとして、私は走り出した。
力が一気にあふれ、私は飛ぶようにナフィの元へ駆け寄り、その身を抱いて、そこから離れた。
それと同時にぱぁっ……ん……と花瓶の砕ける音がした。
ナフィは突然のことに驚いたように私の顔を凝視した。
体は緊張したように固く動かない。
長いようで短い時間が経ったあと、ナフィがぽつりとつぶやいた。

「姉さまの瞳の色、精霊と同じね」