私とナフィは会う夜は月がないので、辺りを照らす光は精霊草の淡い光しかなかった。
その光は物の位置などをかろうじて確認できる程度の光で、森の色彩は失われたままだった。
だからだろうか。
ナフィは私の髪や瞳の色をよく知りたがった。
髪は普段の生活で見ることができるので、それが亜麻色だと教えることはできたが、瞳の色は教えることができなかった。
私は自分の瞳の色を知らなかった。
鏡の存在は知っていたが、そのようなもので自分の姿を見たことは一度もなかった。

話をすることは、どうしてもナフィに外の世界のことを教えてしまうことになる。
今は気づかれていないようだが、もしナフィが外の世界のことに詳しいと神官に感づかれてしまえば、この密会はできなってしまうだろう。
私はもうナフィとの関係性がなくなってしまうことに耐えられなかったし、ナフィもまた、姉さまと慕う私と別れるのは嫌がった。
なので、私はいつも歌を歌った。
女神を、精霊を賛美する歌だ。
ナフィは私の即興曲を気に入ってくれて、会うとまずは歌を歌ってくれ、とねだられた。
それ以外の時間は、お互いのことを質問したり話したりするだけだった。


そうして、私の世界は虚無からひとり、ふたりへと光を増やし、色づいていった。