次の新月の日、私はナフィの部屋から一番近い、木に登り、木の板で出来た窓が開くのを待った。
不用意に合図をして、もしナフィの部屋に神官がいれば、どちらもただでは済まなくなるだろうと思ったからだ。
ナフィはきっと窓のない部屋で、外に出られないまま過ごすことになるだろう。
私はきっと殺されるだろう。
容易に想像がついた。
部屋の中で、人が窓に近づく気配がした。
窓が開き、ナフィが顔をだす。
「ナフィ」
私は窓より高い位置の枝から、ちょうどいい高さの枝に降りた。
「シアン姉さま、来てくれていたのね」
ナフィは嬉しそうに笑った。
「私、もしかしたら来てくれないかもって心配してたのよ。約束を忘れちゃうんじゃないかって……」
「精霊の森の民は、約束を忘れないわ」
「そうよね……約束をやぶったら女神さまが怒ってしまわれるもの」
精霊が仕え、精霊の森の民が信仰している3女神は、月の女神だ。
それぞれ、愛と慈悲、そして約束を司っている。
つまり、女神を裏切る……約束をやぶることは禁忌だった。
新月の子とはいえ、私も精霊の森の民であったので、その信仰は普通の民と変わらない。