「そうだったの。」


お姉さんの顔は、一段と沈んでいく。


「あたし、自分で気付かない振りしてたけど、ずっと好きだった人なんです。家を出るきっかけにもなったし…。あの人を探すことで、あたしは頑張ってこれて…。でも、もう…忘れなきゃいけないんですけどね。」


涙を浮かべた顔で、精一杯笑ってみせた。


お姉さんは、ギュッと抱きしめてくれた。


「大丈夫。唯ちゃんには、尚吾君がそばにいてくれるから。」


優しくつぶやいた。


「でも、あたしには無理なんです。」


お姉さんの腕をほどくと顔を見上げた。


「………どうして?」


ビックリした顔のお姉さん。


あたしは、そのまま何も言わずにリビングに行った。


ソファに座って、ティッシュで涙を拭いてる。


「ねえ、尚吾君と何があったの?」


お姉さんは、心配そうな顔のまま、あたしの向かいのソファに座った。


「…あたし、どうしていいか分らないんです。あたしなんかより、もっと尚吾をちゃんと好きでいてくれる子の方がいいかなって…。」


「そんな事ないわよ。」


「いつ、お兄ちゃんに見つかるか分らないし。あたし、臆病者だから…。好きになるのが怖いんです。」


「誰だって、恋愛には臆病なのよ?そんな事を気にしてたら、いつまでたっても幸せになんかなれないじゃない?!」


真剣な顔をして、ジッとあたしの顔を見てる。


「でも最近、尚吾にいいかなって思う女の子がいるから。」


「それは、唯ちゃんだけでしょ?」


「ううん。尚吾もまんざらじゃないみたいだし…。」


「…………。」


お姉さんはうつむいたまま、何も話さなくなった。


「ごめんなさい…お姉さん。」


深々と頭を下げた。



…お姉さんの気持が嬉しかった。


あたしの幸せをずっと考えててくれて。


それなのに、あたしはお姉さんに答えられない。