尚吾が向かった先は、見知らぬマンションだった。


そこは、尚吾の住むビルからひとつ先の駅。


見知らぬマンションにびくつきながらも、力強く引っ張ってくれる尚吾の手に安心感はあった。


マンションに入ると、オートロックの暗証番号を押し、自動ドアが『カチッ』と音がして開いた。


迷いもなくエレベーターに乗ると、15階を押した。


エレベーターの中は、沈黙の重たい空気が漂って。


あたしは、うつむいて尚吾の手を強く握った。


尚吾は、慣れているかのようにドアの上の表示が上に上がってくのを見てるだけ。



あたしは、どこに連れていかれるのか?



この場になって、初めて不安になった。


エレベーターは、15階につくとドアが開いた。


迷う事なく、尚吾は8コあるドアの一番右端に向かった。



ピンポ~ン


…ガチャッ


鍵が開いて、見知らぬ女の人が出てきた。


「久しぶり。尚吾君がくるなんて珍しいわね。」


女の人は、にっこり笑った。


「ちょっとな…。」


無表情で冷たく言うと、女の人に後を付いていくかのように、中に入った。


部屋の中は、女の人の一人暮らしには広くて、長い廊下には部屋がふたつもあった。


廊下の正面のドアを開けると、大きなリビングと左隣にまたひとつ部屋があった。


部屋の真ん中のソファに座ると、女の人は目の前のソファに座って、ジッとあたしの顔を見ていた。


「尚吾君が、彼女を連れてきたって感じじゃないわね。」


「脱走してきた。」


尚吾の言葉に驚く様子もない。