言葉をなくしたあたしに、霧生は追い討ちを掛けるように話してくれた。


あたしと知り合う前だった--------------。


それは院長室に、書類を届けに行った時だった。


院長が誰かと話していたのだ。


来客かと思い、しばらく様子を見ていた。


しかし、会話の内容が明らかにおかしい事に気付き始めた。


「アメリカに居る引退したジイさんが、認めないと言ってる。」


それは、院長の声。


「お祖父さんですか?」


この声は、院長の長男の秋洋。


「ああ。実際に蒔宮の血を受け継いでるのは、紗羽しかいないと言い張ってな。だから、秋洋には財産はあげられないと。」


「どういう事ですか?」


「あの子の価値は、ジイさんが死ぬまでだ。」


「紗羽の価値?」


「ああ。今朝、エアーメールが来てな。財産は紗羽に譲ると言い出しやがった。あれほど、男以外は認めないと言っていたジイさんなのに。やっぱり、血の繋がりが大事なんだとさ。」


「じゃあ…。」


「あんな娘、価値なんか無いと思っていたが、財産を受け継ぐまでの小道具。好きにするといい。」


「好きにとは?」


「お前達がデキてるのは知ってる。」


「それは…。」


慌てて取り繕うと言葉を探している。