「あたし…あた…あたし…。」


これ以上の言葉が出てこない。


喉の奥でつかえて出てこない。


「こんな怖い話してごめん。そうだよな知らない男の部屋で、こんな話されたら怖いもんな。」



一生懸命なぐさめてくれるお兄さん。


「ち…ちが…違い…。」


「いいんだよ。」


寂しそうに笑うお兄さんの顔が、涙で滲んでいても良く分る。


「あたし…あたし…蒔宮…蒔宮紗羽。」


「…蒔宮?」


お兄さんは何かを思い出したかのように、大きく目を見開いた。


「あたしが…いけなかった…ん…。」


「どうして…どうしてここに?」


ガタッ!!


お兄さんは勢い良く立ち上がった。


「霧生くんと約束したから…冬槻先生と約束したから…。」


「アンタのせいで、ミズ姉ちゃんは…。」


「ごめんなさい。」


「どんなに謝ってもらっても、もう、何も元には戻らないんだよ!!」


罵声のように大きな声で怒鳴った。


「…ごめんなさい。」


謝るしかできない。


急に体がフワッと浮いたかと思うと


バキンッ!!!!!


ものすごい音と共に、背中に強烈な痛みが走った。