一方、眞絢と惣の気配の無い中、穂群は緊張した面持ちで自室で机に向かう。

(私は良い…惣や他の演者には手を出さないで欲しい…)
祈りにも似た心情で筆を走らせる。

(…手を出さないで欲しい…か…)
自分自身の心情に穂群は手を止める。

凶元は私だ…

長い年月の間に屈折し、忘れかけていた事を思い知らされる。

「あ…」
取り落とした筆がフローリングを汚す。

断ち切られた様に穂群が笑う。

「フローリングで良かった…眞絢自慢の絨毯を汚してはな…」
机の下に潜り込み、汚れを拭き取る為に汚れと向き合う。

(本当に良かったか?)

聞き慣れた声に顔を上げる。

「惣?帰ったのか?」
今朝、惣が履いて出かけたパンツでは無く、漆黒の袴の裾が翻る。

(やはり…似ておるか?)
机の下を覗き込んだ不適な笑みは、惣では無かった。

「桜志郎…殿…」

(いつもの様…決めるつもりであった)

「なら…どうして…」