「楽屋に持って来てる」

「見せて貰おうか…都織?」

「いや…なんか見られてる気がする」

「いつもカメラに追われてるクセか?」

「どうだろ?まぁ…相手が穂群だったら怒るのは惣だけだろうけど」
足早に劇場に向かう二人に聞き慣れた声が聞こえた。

「あれ?二人で何してんだ?」
劇場での数少ない合同練習の為に、講義を切り上げた惣が駅ビルで二人を見つけた。

「おお…惣か…都織に昼食をご馳走になったのだ、早退したのか?」

「初日まで間が無いからな…」
コンタクトでは無く、黒縁のメガネを着用するのも大学のある時だけである。

話が見えないまま、惣も都織の楽屋に通された。

「自意識過剰なんじゃないか?」

「都織と私がか?」
矢継ぎ早に二人が都織に問う。

「誰かに見られてる様な…もっと、じっとりした感じの…最近頻繁に感じるんだ」
都織は頭を抱える。

「公演中の都織は入り込む隙が無い程集中しているし、浮き足立ってはいない。見る者が見れば分かるのだがな?」

「そうそう、声掛けれない位にキリキリに巻き上がってる。見てて怖くなる位にな…」
穂群と惣が笑う。

「ところで都織…例の護符と煙管を見せてくれぬか?」

「ああ、そうだったな…」
大切そうに布に包まれた煙管を取り出すと穂群に手渡す。

「確かに…美しく完璧な品だな」
口角を上げて穂群が煙管を眺める。

「これ、使うのか?」
穂群から惣に煙管は渡る。


「ああ…これが護符」
都織が取り出したのは、紛れもなく穂群が書いた護符だった。
しかし、破片となって都織の手中にある。

「これは…また…」
破片を手に取り穂群が笑う。

「本当に人が破ったみたいだな…穂群、何か感じるか?」

「いや…惣は?」

「感じない…」

都織曰く…
穂群から貰った護符を煙管と共に保管して、小道具として使う為に劇場に持って来てから気づいたらしい。

「取り敢えず…自身での保管に気をつける事だな…」
そう言うと、穂群は、常用の護符とは少し違う物を都織に渡す。

「これは?」

「通常の護符とは、少し違う意味合いを持つ物だ」
同じ様に、一緒に保管する事を伝えた。

「そろそろ稽古が再開する様です…」
都織の付き人を兼ねた門下生が二人を呼びに来た。

「ああ、すぐに行く…」

「じゃあ、俺も着替えなきゃな…」
惣と穂群も自分の楽屋に戻る。
その廊下で、穂群は惣に耳打ちする。

「惣…舞台での都織を見ててくれ」

「何か感じたのか?」

穂群が頷く。
「護符の破片に嫉妬の様な物を感じた…」

「嫉妬?」

「ああ…女の嫉妬心だ…」

「女?都織は今、付き合ってる人は居ないはずだぞ?」

「そうだな…生身の女とも限らぬ…」
落ち着いた穂群の言葉に浴衣に着替える最中の惣が振り返る。

「さっきの護符…」

「ああ…式神を付けてある…舞台には私は上がれぬ故、頼んだぞ」