「本当だ…」

「穂群の髪で出来てる…」

「複雑な気持ちだな…」
箱に紅筆を戻しながら都織が笑う。

「複雑?」

「うん…早く使いたい様な、仕舞って大切にしたい様な…でも、使っちゃうんだろうな」

「穂群に伝えて置くよ」
都織の最高の褒め言葉だ。

「なぁ…惣がそこ(休学)してまで、この公演にかける理由って何?」

「また、その話か?」
惣が苦笑いをする。

「ほら…俺達は一応ライバルだし、俺も張り合いが欲しい…」

「張り合いねぇ…」

「それが狙いの演目だと思わないか?Wキャストだぞ?」

「見極めに来るんだ…」

「やっぱり襲名か?」
都織が身を乗り出す。

「違うよ…でも…俺には襲名より大切」

「そう…なのか?」
まだ不思議そうな都織だが、惣の真顔を見て納得するしかなかった。