「自分だけチークブラシ?まぁ、舞台じゃ使わないけどな」

「役得だろ?」
椿が意地悪に笑ってみせる。

「何か言ってた?」
それに対し何かに縋る様子で惣が食い下がったが、穂群の様子に変わりは無かった。


「なんだよ?」
惣は都織の自宅に来ていた。

「…稽古してたのか?」
稽古着の浴衣姿で都織が出迎えた。

「…まぁな…惣が…休学してまで臨もう
としてるのに俺だけ遊んでても悔しいか
らな…知ってるか?世間的には俺達はライバル視し合ってるんだってさ」

「そうなのか?」

「で…用件は?一緒に練習してくか?」
都織の自宅には檜張りの床を誇る稽古場
がある。

「いや…これを渡しに来た…」
小箱を都織に渡す。

「紅筆?」
惣と反応は同じく、筆先のコシを確かめる。

「穂群から…ほら、名前が入ってる」