「こんな傷は数日で治る…」

「駄目です…また血が滲むと足袋が履けませんよ?寒いのですから…」
自分の膝に足を乗せる様に促す。

「いや…消毒が苦手なのだ…」

「…滲みるからですか?」

「…そうだ…」
多少、照れた様に答える穂群を見て笑う。

「凄い力を持った方の言葉とは思えませんね…」

「仕方ないであろう…苦手なのだから…」

「大丈夫ですよ…軟膏ですから…滲みま
せん」
年相応の人懐こい顔で笑う。

「そうなのか?本当だな?」
穂群は恐る恐る足を乗せた。

「大丈夫ですよ…」
そう言うと、丁寧に穂群の足に薬を塗って行く。

翌日…
思ったより早く眠れた自分に驚きながらも、可恵が準備してくれた蒲団から起き上がる。

(最悪の場合は…久方振りに例の方法を使うか…)
欠伸を噛み殺してニンマリと笑う事が出来たのは、今までにも窮地を脱して来た穂群の余裕だろうか?

「…穂群様…」
遠慮がちに可恵の声がする。

「可恵殿か?」
蒲団を抜け出すと襖に手を伸ばそうとする。

「駄目です…穂群様…」

「ああ…そうであったな…」
男はハッタリや見せ掛けでは無く、本当に穂群を軟禁した部屋に護符を施していた。
「朝食を…蒲団を片しますね…」

「いや…構わぬ…少々、頭痛がある故…また、横にならせて貰う」

「大丈夫ですか?」

「大事ない…済まぬが頼んだ」

一応は、軟禁された身の穂群だが相変わらずのマイペース振りである。

(可恵を寄越すのは…あの男の指示か?)
弱くなった火鉢に炭を火箸でくべた。

(可恵には邪心を感じぬがな…)
可恵の足音が遠ざかったのを見計らい戸を開けた。
部屋の外に腕を出すも、貼られた護符の威力は穂群には発揮されなかった。

(これだから…半端な知識の者は…)
薄く微笑むと注連縄から護符を抜き取る。
そのまま、火鉢に護符を入れた。
護符は動物が唸る様な音を少し上げて灰には成らずに燃え消えた。

(まぁ…式神が使えぬのは本当だな…)
護符が消えたのを確認すると、時計に目をやり布団に潜り込む。

「まだ、間に合うだろうな…」
そう呟き、己を微睡みへ誘う暗示をかけた。