翌日、穂群と惣は小屋近くの祠に居た。
惣の稽古が始まるまでの限られた時間しか無いが、穂群の護符に封じられた火箸も持参していた。
「…少し離れてくれぬか?」
趣に穂群が音を立てて両手を合わすと、風の音が変わる。
「結界張るのか?」
「他の人を巻き込んでも困るし、暴れられても困るからな…」
馴れた手つきで印を結び、一帯を異空間に作り上げる。
「終わった…のか?」
穂群に近付く自分の足音がしない。
「見ておったのであろう?姿を現せ…」
穂群の声に、現世界での祠のあった場合から人影が揺らめく。
(ここは?)
現れたのは桜志郎だった。
「結界の中だ…何故に…その姿に?」
(私は実体を持ちませんから…今、見えている姿は貴方様が創り上げた姿です)
「面倒な姿だな…」
穂群が苦笑いを浮かべる。
「この前…俺に何を告げようとしたの?」
その時に見せた姿とは違うモノの姿に戸惑いつつ惣が問う。
(私の片割れの事です…)
「片割れとは…このモノであろう?」
惣が抱えた護符に巻かれた火箸を受け取る。
(はい…)
(本当は…この祠に祀られるべきなのは…その火箸なんです)
惣から火箸を受け取ったモノの姿は式服を纏い、額に心眼の印を書いた穂群の姿をしていた。
「此奴が?私に悪態をつき、お主の様に姿を変えて現れたぞ?」
(それは…私とて同じです…)
モノの片割れは笑ってみせる。
「同じ…って…貴方も火箸なの?」
二人の穂群に見つめられて惣はたじろぐ。
(はい…それに…私は祠で…片割れは蝶番として全うしたので…)
「全う…とは百年か?」
呆れた様に穂群が問う。
「どう言う事だよ?」
(ツクモ神です…私は祠に祀られて…大切にされた九十九神)
モノは寂し気に護符に巻かれた片割れに瞳を落とす。
「ツクモ神…か…」
穂群の言葉にモノは頷く。
話の見えない惣が少しだけ声大きくする。
「どう言う事だよ?また九十九神って…獅子頭と同じなのか?」
「ああ…少し違うがな…」
しゃがみ込んで穂群が地面に文字を書く。
(九十九神)
(憑喪神)
「獅子頭や、このモノの様に長く大切に扱われて来た物に力が宿る九十九神だ…」
「うん…そっちもツクモって読むのか?」
同じ様にしゃがみ込んで惣が指をさす。
「うむ…こっちはな…長期に渡り手入れもされず…九十九神とは逆の扱いを受けて来た物が長年の怨みや憎しみで力を宿すのだ…」
素直にモノが頷く。


