「穂群、惣…」
惣と同じく家紋の入った袴姿の都織が二人に気付く。

「遅かったな?俺一人で対応しなきゃならないかと思った…」

確かにローカル局のカメラや、新聞社が会場に入っていた。

「ごめんな…しかし…結構な人数だな」
このホテルで一番広いホールなのだろう。
至る所に人が溢れ、思い思いに楽しんでいる姿が見える。

「それだけの者達に支えられてる小屋なのだろうな…」
感慨深そうに穂群が会場を見渡す。

「穂群さん…」
穂群の姿に気付いた國本が人混みを分けて近付いて来る。

「國本さん。修繕は終わったんですか?」
細身のスーツを着込んだ國本は、いつもとは違い年相応の姿になっていた。

「ええ…明日の通し稽古から装置も使えます」

「そうですか…」

「そうそう…例の資料見つかりましたよ…これがコピーです」
パーティー会場に似合わない封筒を穂群に手渡す。

「ありがとうございます。そうだ…國本さん…あの祠の中には何が納められているかご存知ですか?」

「詳しくは知りませんが…過去の大型台風の時の修繕に使った物…とか…」

点と点が穂群の中だけで線で繋がった。

「…そう言う事なのか?」

「?穂群さん?」

「いや…資料をお借りして良いですか?」

「それは構いませんが…」

「すみません…惣に部屋に戻ると伝えておいて下さい…」
穂群は、壇上でインタビューを受けフラッシュに囲まれた惣と都織に背中を向け、会場を抜け出した。

(ヤツを解くのは癪だが…仕方あるまい…)

(やっぱり…)
パーティーで揉みくちゃにされた惣が部屋に戻ると、想像通りの光景があり苦笑いを浮かべた。

「穂群…」

「ああ…惣…すまぬな抜け出して…」
眞絢が見立てて持たせたフォーマスーツを着たままベッドの上で胡座をかく穂群が惣を見もせずに答える。

「上着、シワになるぞ?着替えれば良いのに…寒くないのか?」
小さな包みを穂群の横に置きジャケットをクローゼットに仕舞いながら笑う。

「そう言われると寒い気もするな…これ
は?」

「何も食べてないんだろ?昼だって…都織とレストランに寄ってお土産作って貰った」

没頭し過ぎると穂群には良くある事である。
かく言う惣達も会場で食事を摂る事は出来なかった。

「そうだな…忘れていた」
惣から渡された包みをガサガサと開きながらも資料に夢中だ。

さっきから惣を一度も見ない穂群に呆れて口を挟む。
「資料は後にして…ほら、ながら喰いは止めろ!」
その声に、素直に穂群は従う。

「だんだん眞絢に似て来ておるな…」

「仕方無いだろ…」
お茶を淹れながら惣が顔を赤らめる。

「それに…ここまで私に普通に接してくれるのも眞絢や惣が初めてだ…」
しみじみと穂群が呟く。

「普通?」

「ああ…やはり…何処か崇められると言うか、大事にされ過ぎて屋敷の外にすら出してくれぬ者もおった…」

穂群の言葉や所作の現代とのズレがある理由を知った気がした。
「まぁ…兄ちゃんは確かに飄々としてるしな…ほら…超!昔話は後にして先に食べろよ」

「なっ…昔話とは酷いな…そう言う所も似ておるぞ」

「はい、はい…分かったから…で…資料から分かった事は?」
やっと穂群が手放した資料を取り上げて目を通す。

「正確な時期は不明だが…確かに大掛かりな改修工事があった様だ」

「これ…出納帳のコピー?」
穂群が國本から渡されたのは小屋の歴史を綴った書物や資料では無かった。

「そうだ…当時の資料としては優秀だぞ?出納帳は」

「まぁ…確かに…買った物を細かく記載してあるけど…」

「その…長月の項目なのだが…」

「長月…九月?確かに大掛かりな工事したんだろうね…材木や瓦…畳まで…」
言われたページを惣が開く。

「私は…それが火箸に関係していると思う…」

「火箸って…蝶番のか?」

「ああ…明日…惣の前に現れた祠のモノを呼び出そうと思う…」

美しい白拍子の姿をしたモノを惣は思い出す。
「穂群の前に現れたモノは?」

「関係性があるのだろうが…まずは話が通じそうな方から…」
桜志郎の姿が、余程堪えたのか?
穂群は祠のモノを選んだ。

「じゃあ…俺も行く…」