「これは…火箸?曲がってますね…」
受け取った火箸を國本が不思議そうに見つめる。

「これがセリの蝶番に使われていて…見覚えは?」

「…ありません…私は装置に関しての知識は皆無なので…」

「そうですか…小屋の修理歴は解かりませんか?」
渡された火箸を包みながら穂群が聞く。

「修理歴までは…ただ…古い出納帳は残ってますから…どの辺りを?」

穂群は火箸が言っていた(百年)を伝える。

「分かりました…調べてみます…穂群さんが慌ててる…と…言う事は小屋に何かがあるんですね?」

「ええ…少し苦戦してます」
小屋へ向おうと立ち上がる國本の背中に笑いかける。


一方の惣は…
ミーティングを終え部屋に戻ったが、姿の無い穂群を探して小屋の近くに来ていた。
今朝と同じく、ネルシャツを羽織っただけでは夕方の風は冷たく感じる。

「…祠?こんな場所に??」

穂群も見つけた祠の場所に居た。

東風に煽られて、瞳を閉じた瞬間に声を感じ振り返る。

(誰?)

「…誰…って…そっちこそ…」
惣の目の前には、白拍子の姿をしたモノが立っていた。
穂群程、敏感に感じる訳では無いが、このモノに特に邪気を感じず思わず応えてしまう。

(貴方が会いたいと思って居た者の姿を借りました…)

「じゃあ…桜志郎さんかな?ねぇ?俺と似てる…かな?」
舞台衣装を着けた惣に確かに似ている。
しかし、今はそれを判断出来る唯一の存在の穂群は居ない。

(私は…姿を借りただけなので…ごめんなさい…)

「そうか…そんなモノがどうして俺の前に出て来たの?」
怖さや、おどろおどろしさを感じさせないモノを相手に惣が笑う。

(…私の…対を…納めて欲しいのです…)

「対?」

(対は…私にも怨みを感じています…だから…)

「惣から離れろ!」
核心に触れ様としたモノに対し、穂群の冷たい声が背後から聞こえた。

(どうか…あの方の力をお貸し下さい…)

「大丈夫だ…穂群…」
穂群に声を掛け、振り返るとモノの姿は無かった。


「対を…納めろ…か…」

「うん…そう言ってた…あの祠って何が納められてるんだ?」

「國本殿の話によれば、再び天災が起きぬ様に…との事だが…納められた物までは知らぬ…」

「対を…か…対になった片割れなんだろうね…祠を開ける訳には行かないし…」

「…見たのか?」

「何を?」
ポツリと呟き立ち止まった穂群が立ち止まる。

「モノの姿だ…桜志郎殿だったのか?」

「いや…一番見たいと思ってる姿…とは言われたから桜志郎殿だったのかな?俺は姿を知らないから」

「それはそうだが…」

「そんな俺にも似てなかった感じがする…それに…(あの方の力をお貸し下さい)って…穂群の事だろうし」

「私達の意識を介さなくては、疎通しないモノか…比較的、下等と言うか…まだ若いと言うか…」

「國本さんは?何て?」

「この火箸について調べてくれておる」

「そっか…あっ!」
何かを思い出した様に惣が声を荒げる。

「?どうした?惣??」

「國本さん…で思い出した…今日…ホテルでパーティーだ…」
穂群の手を引き、急ぎ足でホテルへ戻る。