「部品が欠けたらしいんだけど…歯車にスタッフの服が絡んだって…」
集められた光を頼りに、歯車を逆回転させ絡んだ服を取り除く。
「…穂群…」
「ああ…」
惣の言わんとする事を察した穂群が頷く。
「こりゃダメだな…」
折れた部品を拾い上げたスタッフが溜息を吐く。
蝶番部品に差し込んであった金具が歪んで抜け落ちたのだろう。
「とりあえず、応急の修理に入ります…先に舞台での役者さん達の稽古を…」
舞台監督の言葉に、惣と都織は舞台へ。
「すまぬが…その古い金具を見せてくれまいか?」
「構いませんよ…不要ですので」
穂群はスタッフから金具を受け取る。
修理の為に慌ただしくなった奈落から戻ると木戸をくぐり外に出た。
暗所から出て来た為、少しだけチカチカする瞳を瞬きでやり過ごした。
そして、受け取った金具を見る。
「…火箸?」
U字状に曲げられていたが、間違いなく火箸だ。
「これが何故?」
穂群は一応、辺りを気にして周りを見渡したが人の姿は無い。
さわさわと、穂群の毛先と木々を揺らす優しい風が吹いているだけだ。
(ここなら大丈夫か?)
石段に置いた(火箸)に向かい、音を立てて手を合わせると穂群の髪だけが強く靡く。
(さぁ…姿を現せ…お前の思う姿で!)
穂群に反応する様に(火箸)が姿を変える。
(お前が一番堪えるのは…この姿であろう?)
聞き覚えのある声に顔を上げる。
(惣?!)
現れたのはスーツ姿の惣を模した(火箸)だった。
(当たっていたか?こちらの姿と迷ったがの…)
(火箸)の惣は、本物の惣が絶対に見せない様な唇の端だけを吊り上げた笑顔で再び姿を変える。
(何のつもりだ?)
それは…裃を纏った桜志郎の姿に変わった。
(他意は無い…)
桜志郎も唇の端だけを吊り上げる。
(私が迷うとでも思ったか?)
同じく唇の端で穂群が笑ってみせる。
(まぁ、良い…長い間…奈落の底で待った甲斐があったと言う事だな)
少しだけ穂群に気押しされたのか?
(火箸)は再び惣の姿に戻る。
どっかりと(火箸)の惣は胡座をかいて座る。
(自ら外れたのか?)
(そうだ…)
惣と同じ様にネクタイを指で緩める仕草で答える。
(その権が備わったのだ…)
(権?どう言う事だ?)
(百年目だ…あの奈落の底でな…)
言いかけて姿を消した。
「おい!待て…百年とはなんだ?」
思わず声を発してしまうが、元の曲がった火箸の姿に戻る。
「穂群?こっちか?」
石段に穂群が居る事を声で見つけた惣が石段に周る。
「惣…稽古はどうなったのだ?」
「少し早く終わったよ…セリを修理するから…って、完全にシャットアウトだ…?穂群?どうかしたのか?」
傍まで下りて来た惣に穂群は抱き付く。
「何かあったのか?」
ふらつく事無く穂群を受け止めた惣が心配そうに覗き込む。
「大丈夫だ…火箸と話しておっただけだ」
「故障の原因は火箸なのか?」
「ああ…意図までは掴めておらぬがな…」
「じゃあ、俺…邪魔しちゃったのか?」
「…そんな事は無い…」
見上げた惣の笑顔は、決して唇の端だけを吊り上げた物では無く、穂群は腰に回す腕の力を強める。
集められた光を頼りに、歯車を逆回転させ絡んだ服を取り除く。
「…穂群…」
「ああ…」
惣の言わんとする事を察した穂群が頷く。
「こりゃダメだな…」
折れた部品を拾い上げたスタッフが溜息を吐く。
蝶番部品に差し込んであった金具が歪んで抜け落ちたのだろう。
「とりあえず、応急の修理に入ります…先に舞台での役者さん達の稽古を…」
舞台監督の言葉に、惣と都織は舞台へ。
「すまぬが…その古い金具を見せてくれまいか?」
「構いませんよ…不要ですので」
穂群はスタッフから金具を受け取る。
修理の為に慌ただしくなった奈落から戻ると木戸をくぐり外に出た。
暗所から出て来た為、少しだけチカチカする瞳を瞬きでやり過ごした。
そして、受け取った金具を見る。
「…火箸?」
U字状に曲げられていたが、間違いなく火箸だ。
「これが何故?」
穂群は一応、辺りを気にして周りを見渡したが人の姿は無い。
さわさわと、穂群の毛先と木々を揺らす優しい風が吹いているだけだ。
(ここなら大丈夫か?)
石段に置いた(火箸)に向かい、音を立てて手を合わせると穂群の髪だけが強く靡く。
(さぁ…姿を現せ…お前の思う姿で!)
穂群に反応する様に(火箸)が姿を変える。
(お前が一番堪えるのは…この姿であろう?)
聞き覚えのある声に顔を上げる。
(惣?!)
現れたのはスーツ姿の惣を模した(火箸)だった。
(当たっていたか?こちらの姿と迷ったがの…)
(火箸)の惣は、本物の惣が絶対に見せない様な唇の端だけを吊り上げた笑顔で再び姿を変える。
(何のつもりだ?)
それは…裃を纏った桜志郎の姿に変わった。
(他意は無い…)
桜志郎も唇の端だけを吊り上げる。
(私が迷うとでも思ったか?)
同じく唇の端で穂群が笑ってみせる。
(まぁ、良い…長い間…奈落の底で待った甲斐があったと言う事だな)
少しだけ穂群に気押しされたのか?
(火箸)は再び惣の姿に戻る。
どっかりと(火箸)の惣は胡座をかいて座る。
(自ら外れたのか?)
(そうだ…)
惣と同じ様にネクタイを指で緩める仕草で答える。
(その権が備わったのだ…)
(権?どう言う事だ?)
(百年目だ…あの奈落の底でな…)
言いかけて姿を消した。
「おい!待て…百年とはなんだ?」
思わず声を発してしまうが、元の曲がった火箸の姿に戻る。
「穂群?こっちか?」
石段に穂群が居る事を声で見つけた惣が石段に周る。
「惣…稽古はどうなったのだ?」
「少し早く終わったよ…セリを修理するから…って、完全にシャットアウトだ…?穂群?どうかしたのか?」
傍まで下りて来た惣に穂群は抱き付く。
「何かあったのか?」
ふらつく事無く穂群を受け止めた惣が心配そうに覗き込む。
「大丈夫だ…火箸と話しておっただけだ」
「故障の原因は火箸なのか?」
「ああ…意図までは掴めておらぬがな…」
「じゃあ、俺…邪魔しちゃったのか?」
「…そんな事は無い…」
見上げた惣の笑顔は、決して唇の端だけを吊り上げた物では無く、穂群は腰に回す腕の力を強める。


