「…以上が注意点です。宜しくお願いします」
舞台監督からの配役の紹介と顔合わせを兼ねた挨拶の後、稽古に入る。
それぞれが持ち場での動きを確認する作業の為、出演者達の舞台稽古は後回しになった。
「本当に人力なんだな…」
高い位置にある木戸を開け閉めしてスポットライト等の効果を出すタイミングの打ち合わせや、舞台上では転換やセリを動かす練習が行われていた。
「凄いよな…」
「うん…それが未だ現役なのもな…」
都織と惣は悪戯を企てる小学生の様に楽
しそうな眼差しで、その様子を見ている。
奈落を通り花道のセリが登場する場面のある二人は、呼ばれるのを待っているのだ。
一方、穂群は与えられた一番狭い楽屋で、小道具に護符を施していた。
「今回は流石に少ないな…」
芝居小屋が主催の特別興行であり、
いつもの劇場でも公演が行われて居るので、限られた人数で出来る演目になる。
今回、都織と惣と言う若手花形役者の競演がメインである。
各公演毎の口上。
惣の帝役と、都織の鬼女役が売りの(紅葉狩)に、それぞれの舞踊。
有名な演出家が書き下ろした荒事(あら
ごと)が上演される。
「私も奈落を見て置くか…」
仕事を済ませた穂群が楽屋から舞台袖に向かう。
「仕事、終わったのか?」
「ああ…私も奈落を見ておこうと思ってな…」
出番を待つ惣が穂群を見つける。
思ったより静かな音で都織を乗せたセリが勢い良く上がり、
その乗降に合わせ飛び出す様にして都織が花道に登場する。
「さっき、地下の様子を見たけど10人位で一気に押し上げるんだ…」
「惣も飛び出すのか?」
「いや…残念ながら俺は引っ込みなんだよね…井戸に見立ててドボンと…」
「そうか…それにしても、都織は稽古なのに楽しそうな顔をしておるな…」
繰り返すセリ上げを楽しそうにこなす。
「うん、俺も後で少しだけセリ上げて貰う約束してるんだ…こんな体験、滅多に出来ないから」
その時だった…
ギシギシと音を立て、時空の表裏を表現する為に使われる舞台上の盆が中途半端な位置で止まる。
「おい!大丈夫か??」
「明かりだ!照明を持って来い!」
惣と穂群は顔を見合せる。
「何か起きたのか?」
「行ってみよう!」
人一人がやっとの通路を抜ける。
足元を照らす明かりも無く、セリへの移動も懐中電灯を使う。
盆の真下に辿り着くと、スタッフや盆を回すボランティア達が、それぞれの懐中電灯の光を一カ所に集めていた。
「どうしたのだ?」
傍で一部始終を見ていたであろう都織に声をかける。


