「これはまた…古い祠だな…」
1m四方の小さな祠の周りをぐるりと一周する。

特に何も感じない。
(何かの再来を防ぐ為の祠か?)

供えられた御神酒や榊も新しく、定期的に交換され大切にされているのが分かる。

「穂群さん…どこですか?」
國本の声が頭上から響く。

「ここです…どうかしましたか?」

「先程…皆さんが空港に着いたと連絡がありましたよ」

「ありがとうございます。後、どの位で到着ですか?」

「三時間位ですかね…私達は、お茶にしませんか?」
國本の提案を穂群は喜んで受ける。

「あの祠は?」
國本の元に戻った穂群が問う。

「大きな台風が来て…その再来を食い止める為の物だと聞いています」

「大切にされているのが分かりますね…」
出してくれた菓子に手を伸ばしながら穂群が笑う。

「まぁ…今回の台風で多少芝居小屋に被害が出てしまいましたが…あの位で済ん
だのは祠のおかげ…だと言う人も居る位ですから」
誰が…という訳では無く、この一帯で大切にされているのだろう。

國本とのお茶を楽しみ、これからの滞在中にお世話になるホテルへのチェック・インを済ませた。

この小屋での芝居や催し物を観に来る客や、近くの神社に参拝に来る者の為に造られた新しいホテルが数軒ある。

「穂群?ちゃんと辿り着けたのか?」
ロビーで新聞に目を通す穂群が聞き慣れた声に振り返ると都織の姿があった。

「珍しいな…スーツ姿とは…」
その後ろにはフロントで手続きをするスーツ姿の惣も見えた。

「県庁訪問があったからね…待った?」

「まぁな…小屋の下見に行って、周りを散策した」

「穂群!迷わなかったか?」
手続きを終えた惣が合流する。

「大丈夫だ…」

三人はエレベーターに乗り込む。
乗り込むと同時に、溜め息と共にネクタイを緩める都織と惣。
同じく溜め息を穂群もついた。
「なんだ?二人して?」

「普段、ネクタイなんてしないからな…」

「そうだよな…振り袖姿の方が楽だ…そう言う穂群は何の溜め息なんだよ?」
二人は口々に言う。

「…言葉の壁だ…どうも普通に話すのは苦手だ」

「じゃあ、少し休んだら夕飯行こうな」
向かい同士に振り分けられた都織と惣の部屋の前で別れる。
「ああ…取り敢えず着替えてシャワーだな…」
そう言い合い部屋に入る。

「… …」

「どうした?」
スーツをハンガーに掛けながら惣が言う。

「…都織…何も言わなかったな…」

「?何を?」

「私達が同じ部屋に入った事を…だ…」

「そんな事気にしてたのか?」

「いや…まぁ…」

「十分に雰囲気が出てるんだってさ…」
ウエストのベルトを抜き取りながら惣は笑う。

「雰囲気?」

「そう…穂群からも出てるって…幸せの色だって…」

「…都織が言ったのか?」
ツインベッドに腰掛けながら穂群は顔を赤らめる。