千人で満員御礼になるという規模のホールの中程で、穂群と惣は稽古の様子を観ていた。
演出の担当者と共に、眞絢が率先して所作の形を作る。
「鑑賞教室か…」
分厚いナビゲーター用の台本を持った惣が溜息をつく。
「どうした?」
小声で穂群が覗き込む。
「いや…このホールはナビだけだから良いんだけどさ…巡業先ではイヤフォンガイドもしなきゃならないんだよ…」
幕間に登場して登場人物やあらすじをレクチャーするナビゲーターとは別に大きなホールでは、希望者のみが聞ける演目に沿ったアナウンスを聞く事が出来き、
その役目も惣は担っている。
「そうなのか?」
「まだ舞台に出てる方が気楽だよ…」
ここ数年、舞台以外での惣や都織を筆頭にした若手役者の露出が増えて来ていた。
眞絢と同世代の役者達の息子達が注目されていて、第二次ブームと表現される事もある。
「これも大切な仕事だろう?…柱?」
急に座席から穂群が身を乗り出す。
「穂群?」
「何か感じないか?」
惣の隣には陰陽師の顔をした穂群が舞台を見守る。
リハーサル後、穂群は舞台上に居た。
(アレは…人の意識か?モノでは無いようだが…)
「穂群?」
「眞絢…」
声の主は惣では無く眞絢だった。
「うん…惣は本読みのリハーサルしてるよ」
「そうか…」
「なんか…その感じ…懐かしいね…」
何かを思い出した様子で穂群を見つめる。
「そうかもな…」
「そうだよ。俺が学生の頃だから…どの位振り?って…まさか…この舞台に?」
「ああ…」
穂群は髪を揺らして頷く。
「まぁ…今回は…俺は直接は舞台には出ない訳だし…」
少しだけ拗ねた様子を惣がみせる。
「惣が舞台に立たない時に感じるとは…」
今回に限り、穂群の式神を眞絢が引き受ける事になった。
尤も…惣が幼い頃には、眞絢が穂群の式神となり動いていたのだが。
「あー…なんか久々だから舞台より緊張するな…どんな事してたっけ?」
代役と言え…舞台で力を抜く事が無い眞絢が珍しく緊張を口にする。
「何…って…舞台は穂群が立ち入れ無い場所だから、そこでモノを見張るんだよ!」
「え?今の式神は、それがメイン?楽してるなぁ…惣は」
「な…眞絢兄ちゃんの頃は何してたんだよ?」
貸し切り状態のジムのジャグジーで、伯父と甥は汗を流す。
「何…って…俺の頃は携帯とか無かったからね…ポケベルも電話が無きゃダメだし…あ、ポケベルって知ってる?穂群も頻繁に使い魔を飛ばして来てたけど…」
「使い魔って…」
「そうだよ…見た事ある?」
穂群が護符に命を吹き込み、眞絢と連絡を取る姿を幼い頃に見た記憶が甦る。
「ある…」
「使い魔が来るまで代わりに尾行したり、誘導したり大変だったんだから」
「そんな事まで?」
「うん、それにさ…穂群の使い魔って微妙なんだよね…あ、強さとかじゃ無いよ?」
使い魔は、命を吹き込む人の個性が強く表れる。
穂群の場合、小動物や小龍が模される事が多い。
「穂群の趣味そのものだろ?」
「うん、仕事はバッチリなんだけど…あれ(使い魔)だけはちょっと…」
二人が穂群の話をしている頃、当の穂群は護符を書いていた。
まだ、モノが明確では無い為に色々な用途の物を準備する。
(念の為…惣にも持たせて置こう)
歴任の式神の中では、かなり仕事をこなしていた眞絢ではあるが、出ずっぱりの役をこなすには荷が重いと考えていた。
演出の担当者と共に、眞絢が率先して所作の形を作る。
「鑑賞教室か…」
分厚いナビゲーター用の台本を持った惣が溜息をつく。
「どうした?」
小声で穂群が覗き込む。
「いや…このホールはナビだけだから良いんだけどさ…巡業先ではイヤフォンガイドもしなきゃならないんだよ…」
幕間に登場して登場人物やあらすじをレクチャーするナビゲーターとは別に大きなホールでは、希望者のみが聞ける演目に沿ったアナウンスを聞く事が出来き、
その役目も惣は担っている。
「そうなのか?」
「まだ舞台に出てる方が気楽だよ…」
ここ数年、舞台以外での惣や都織を筆頭にした若手役者の露出が増えて来ていた。
眞絢と同世代の役者達の息子達が注目されていて、第二次ブームと表現される事もある。
「これも大切な仕事だろう?…柱?」
急に座席から穂群が身を乗り出す。
「穂群?」
「何か感じないか?」
惣の隣には陰陽師の顔をした穂群が舞台を見守る。
リハーサル後、穂群は舞台上に居た。
(アレは…人の意識か?モノでは無いようだが…)
「穂群?」
「眞絢…」
声の主は惣では無く眞絢だった。
「うん…惣は本読みのリハーサルしてるよ」
「そうか…」
「なんか…その感じ…懐かしいね…」
何かを思い出した様子で穂群を見つめる。
「そうかもな…」
「そうだよ。俺が学生の頃だから…どの位振り?って…まさか…この舞台に?」
「ああ…」
穂群は髪を揺らして頷く。
「まぁ…今回は…俺は直接は舞台には出ない訳だし…」
少しだけ拗ねた様子を惣がみせる。
「惣が舞台に立たない時に感じるとは…」
今回に限り、穂群の式神を眞絢が引き受ける事になった。
尤も…惣が幼い頃には、眞絢が穂群の式神となり動いていたのだが。
「あー…なんか久々だから舞台より緊張するな…どんな事してたっけ?」
代役と言え…舞台で力を抜く事が無い眞絢が珍しく緊張を口にする。
「何…って…舞台は穂群が立ち入れ無い場所だから、そこでモノを見張るんだよ!」
「え?今の式神は、それがメイン?楽してるなぁ…惣は」
「な…眞絢兄ちゃんの頃は何してたんだよ?」
貸し切り状態のジムのジャグジーで、伯父と甥は汗を流す。
「何…って…俺の頃は携帯とか無かったからね…ポケベルも電話が無きゃダメだし…あ、ポケベルって知ってる?穂群も頻繁に使い魔を飛ばして来てたけど…」
「使い魔って…」
「そうだよ…見た事ある?」
穂群が護符に命を吹き込み、眞絢と連絡を取る姿を幼い頃に見た記憶が甦る。
「ある…」
「使い魔が来るまで代わりに尾行したり、誘導したり大変だったんだから」
「そんな事まで?」
「うん、それにさ…穂群の使い魔って微妙なんだよね…あ、強さとかじゃ無いよ?」
使い魔は、命を吹き込む人の個性が強く表れる。
穂群の場合、小動物や小龍が模される事が多い。
「穂群の趣味そのものだろ?」
「うん、仕事はバッチリなんだけど…あれ(使い魔)だけはちょっと…」
二人が穂群の話をしている頃、当の穂群は護符を書いていた。
まだ、モノが明確では無い為に色々な用途の物を準備する。
(念の為…惣にも持たせて置こう)
歴任の式神の中では、かなり仕事をこなしていた眞絢ではあるが、出ずっぱりの役をこなすには荷が重いと考えていた。


