バスの中は、運転手以外人は乗っておらず貸し切り状態だった。それでも俺たちは一人で二人用の席に座るわけでなく、二人用の席に二人で肩を並べて座った。会話も途切れてしまった今、二人とも違うことをし始める。彩はイヤホンを耳につけ音楽を聞き始め、俺は特にすることがないことにより、さっきまでなくなっていた緊張がまた、じわじわと胸の鼓動を早めていった。今はとりあえず合格していることを神様に祈りたいが、あいにく今持ってるお守りは合格祈願ではなく、御利益が有るかわからないほど古ぼけた縁結びのお守りだ。勉学とはかけ離れたものしかない。しかし、神様は神様だ。祈ったって損はないだろう。・・・御利益もないだろうけど。とにかく祈らないよりはましだよな!藁にもすがりたいんだよ俺は!
「誠、それ縁結びだよね?前からついてたし。今は関係なくない?」
不意に右耳のイヤホンをとっていた彩が、縁結びの神に合格の祈りを始めようとした俺に話しかけてきた。
「確かに違うが、神様は神様だろ?だから祈っておこうかなって」
「バカじゃん。意味なくない?そんなことしなくても、大丈夫だって」
「いいだろ!別に誰に祈ろうと!思い込みも大切だろ」
と、自分でも意味不明で無意味だと自覚しながらお守りを握る。このお守りはスイミングスクールで知り会った同い年の女の子からもらったものだ。といっても小学五年の頃なんだが。だから古くて当たり前なのだ。実際顔も思い出せないし。
「ふーんそう」
冷たく返事をされてしまった。