「はぁ・・・」
 今俺、睦月誠は受験票を持ってバス停でバスを待っている。今日は受験した高校に行くためだ。いわば合格発表の日だ。受験番号は「110」イトウと読めなくもないよな?ちなみに中学の担任は伊藤先生でなんかの縁でもあるのかと思うくらい、ある意味どんぴしゃだった。そのことを先生に話したら、
「やったじゃないか!先生の御利益のおかげで受かるぞ!」
と、神々しい満面の笑みで言われてしまった。しかし、先生自身は、高校受験に失敗しているため御利益はなさそう、てかないだろう。だから俺は内心ではとても不安で、今の気持ちは真夜中の月明かりのない海のように暗く、沈んでいる。
「はぁ・・・」
 そりゃぁため息も憑きたくなると思わないか?心臓はバクバクと鳴り、口から出るんじゃないかというぐらい、脈をうっていて、そのたびに不安と緊張がせりあがってくる。
「はぁ・・・」
3つ目のため息をついたときだった。
「てぃ」
 俺の脇腹に可愛らしい掛け声とともに指が刺さった。肌を貫通しているわけではないぞ?俺はこの脇腹攻撃には敏感、というかくすぐったくて飛び跳ねて半回転して、攻撃してきた人がいるであろう方を向いた。が、一瞬誰もいないかのように思えたが、小さい少女が立っていた。まぁ俺から見て身長が低いだけなんだけど。俺は身長が180cmで、その同い年の彼女、草壁彩は身長150cm位だ。髪は墨のように真っ黒でつやがあり、その髪は腰まで伸びていて、いつも学校では何かしらの形で縛っているが、今日は惜しみなく、癖のない美しく真直ぐに伸びた黒髪を垂らしていた。
「や、おはよ。朝からそんなため息ばっかついて。どうしたの?」
「いやいや、今日は合格発表だぜ?緊張やら不安で、逃げ出したくなるもんだろ?」
「そう?大丈夫だと思うけど」
「余裕そうで、何よりだぜ」
え?普通に大丈夫でしょ?って顔で首を傾げられちゃったら何もいえねーよ。確かに彩は頭がいいのは知っている。というか彼女のおかげで俺も成績が急上昇して、今この時を迎えることができたんだし。多分教えてもらっていなかったら受けることさえできなかっただろう。だから彼女には感謝感謝だ。・・・・落ちていたら見せる顔もないが。
「君も大丈夫だって」
「そうか?結構きつい気がするが」
「あんなに頑張って一緒に勉強したじゃん。大丈夫だよ」
にかっと、はにかんだ笑顔でそう言われ、落ちていた時の罪悪感からか、ただ単に照れただけなのかはわからないが、無意識に顔をそらしてしまった。しかし、なぜかさっきの彩の一言は俺から不安を少なからず無くしたことは確かだ。
「そうかな?ありがと」
「べ、別に安心させようとか、そんなつもりはないんだからね」