短編集



     ★


駅から歩いて10分程度で『ゆうえんち』に着いた。

フリーパスを買って中へと入ると、とにかく人の群れ。

出口と入口は同じところなので、お土産屋さんが多く並んでいることもあって、さらに混んでいる。

さらに奥を見ると見たことのないような乗り物がせわしく動いていた。

「何か乗りたいものあるか?」

「わからない。」

「ま、初めてだもんな」

そういった暁君は少し悩んでから何かを思いつき。

「やっぱアレだろアレ」

そういって急に人混みの中を歩き出してしまう。

しまった。

あまりにも急に動いたのでついていけず、置いてかれてしまった。

少ししか離れていないのに他の人が邪魔で追いつけない。

流れの強い川を進んでいくような感じだった。

どんどんと距離が離されていく。

すると暁君が私がいないことに気づき、人ごみを押し分けてすぐに戻ってきてくれた。

「悪い依紗那!」

そう謝りながら私の前に立つ。

「ううん。大丈夫。」

「すまん」

不意に右手があったかくなった。

何かと思ってみてみると、暁君が私の手を握っていた。

「?」

急になんだろうと首をかしげていると、

「こうすればはぐれないだろ?」

そういってそっぽを向いく。

「さ、いくぞ」

そういって人ごみをかき分けながら進んでいく。

そういえば誰かと手をつなぐことって何年振りだろうか。

小学校の頃以来かな?あ、中学校でもあったっけ?

思い出せないな。

でも、他人の手ってこんなにあったかかったんだ。

そんなことも忘れていたみたい。

「あったかい。」

「何がだ?」

「手。暁君の手が。」

「あ、ああ、そうかそれはよかった」

そういうと進行方向へすぐに顔もそむけてしまった。

でも少し短めの髪の隙間から見えた耳は熟したリンゴのように赤くなっていた。