「殺して、しまったんでしょう?」

「大丈夫だから。元に戻すから、一緒に行こう。」

一緒に、って。


「サリサ様をもう一度元に戻すには、探さなきゃ」
「何をですの?」

「アーベル様は、保険として、サリサ様の欠片をどっかに隠したんだ、だから、それを見つけないと、元に戻せない」

「?…死んでしまったら帰ってきません。…何を、どう、戻すんですの…?」


初めて灰色の瞳が戸惑ったように揺れた。
小さく、戻せるよ、と呟く。

「死を取り消すなんて、出来ません。…禁術だと、あなただって、知ってるでしょう?」

「でも、それしか方法がないんだ。…一緒に行こう」

掴まれた手をアイリスは振り払う。

「行けません、」
「きちんとした、幸せになれるんだよ?」

「きちんと、ってどういうことですの?」


幸せじゃ、なかったんですか?多季は。
どうして…。

そっか、と多季はアイリスに背を向ける。


「僕は行くよ…」

寂しそうな背中がアイリスから遠ざかっていく。

でも、アイリスは追いかけることも出来なかった。

どうして、私は追いかける事が出来ないんだろう?


横を見ると、あの惨い姿で二人が転がっている。

「あぁ、」

アイリスは声を漏らした。
私は、自分の大好きだった、あの人が、そんなことしたんだと、信じたくなかったんだ。

汚いものなど、信じたくもない、見たくもない、それが私の罪。


「探さなきゃ、」

彼が、禁術を行う前に止めなきゃ。
アイリスは立ち上がり、簡単な荷物を用意すると屋敷を出た。

もう一生、戻ることはない、私の幸せだった、居場所。私は、確かに、幸せだった。

多季の薄くなってしまった気配を辿って、アイリスは歩き出した。

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