本と私と魔法使い

「…?」

床の冷たい感触に目を覚ます。ゆっくりとアイリスは目を開けると、ぼんやりとした頭で考える。

確か、アーベル様の奥の部屋で、…殴られた?


首の辺りが確かに痛い気がする。

「きゃ、…なにこれ」


目を凝らしてみると、目の前に雑に転がる二つの体。
アーベル様、とサリサ様…

サリサは胸から腹にかけて切り裂かれているし、アーベルに至っては頭部が潰れかけてしまっている。

アイリスはあまりの惨状に吐き気がした。


一体、誰が。

「やっと、目を覚ましたんだね。アイリス」

あぁ、多季の声だ。そう思って振り向くと、


「ッ…!!…ど、ういうこと」


顔にも、服にも、血の飛んだ、多季がこちらをみて笑っていた。

それじゃあ、まるで、さっき誰かを殺して来たみたいじゃない。


「上手く、血って落ちないよね」

「…どういうことですの!!今すぐ、説明してください」

目の前の死体を見る、
否定して欲しい。そしたら、絶対信じるから。

嘘でも、信じるから。

「元に戻すんだよ、…全部。それで、幸せに暮らそう、ね?」


アイリスの腕を痛いくらい掴んで、笑っていう。
否定、はしてくれないの?
「元に、ってどういうことですの!?」