本と私と魔法使い

アーベルの背中を睨み付けながら、多季は手を伸ばすと、何かが手に当たった感覚がした。

花瓶だ。

多季は、アーベルの近くに静かに近づき、頭を目掛けて花瓶を振り上げた。
ごっ、と鈍い感触が花瓶越しに伝わった。


「っ、…あ、あ…、ぁぁあ。多季っ、お前。…」

ぬらぬら光る血が頭を伝って流れる。アーベルは手をあてて見ると、ひっ、と喉を鳴らした。


「元に、戻すんだ」
「何を、言ってるんだ…、たとえ、私を殺したところで、この偽物は帰ってこない…保険として他の場所に欠片を隠したんだ…」


「だとしたら、見つけるのみだ」

もう一度、多季は振り上げる。やめろ、とアーベルが声をあげても、泣き叫んでも、何度も何度も振り上げた。

アーベルの顔がわからないほど殴ったあと、手の中から転がり落ちたものを拾った。


血で赤く黒ずんだ石のような物質、アーベルが動力源だと言ったものだ。まだあたたかく、息づいているようだった。


「元に、戻してみせますから」

赤茶の日記帳を拾い上げ、その石を見て、そう呟いた。



―…