本と私と魔法使い

多季に背を向け、アーベルはサリサのもとに屈むと、胸をナイフで切り裂いた。切り口を押し広げるように、手を突っ込めば、ぐちゃりという臓器の押しつぶされる音がした。


「あった、あった」

そう言うと、アーベルはサリサの体の中から、何かを取り出す。その手は血で黒ずんで、何を持っているのかわからない。


「これはねぇ、これの動力源、…私が作り出したんだ。リリィの消えてしまいそうな魂と、魔質の魂をかけあわしたんだ。」

ふふ、と笑顔を浮かべながら、大切そうに手のなかのモノを握りしめた。


「これで、また、リリィと会うことが出来るんだ」

「あなたは…一時でも、心を傾けた女性を、どうして、こんな姿にすることが出来るんですか…?」


「私が、心を傾け、許すのは、リリィのみ。ただ、リリィさえ、いれば何も要らないんだ」


ははは、と真っ赤に染まる手を見ながら、笑った。

「偽物でも、血は流れるんだな、」


サリサは、

―多季、あたしはね。いつか、アーベル様に空を見せてあげたいの。

リリィ様が好きだったらしい、青い空を見れば、きっと、

どこかにリリィ様を見つけて下さるわ。


そう言って太陽に照らされた彼女は明るい。憎まないのか、と問えば、ただ笑って首をふった彼女。


裏切り、まだそんなことを言うのか。
アルザもこんな奴に奪われて悔しいだろうに。


君も、きっと悲しむね。

終わらせなきゃ、
そして、
そして、
もとに戻さなきゃ。