本と私と魔法使い

「できません…」

サリサを殺せば、きっと、彼女が悲しむ。からん、と乾いた音をたてて、アーベルに渡されたナイフが床に転がった。手に力が入らなくて、こんなにも大切におもってしまっている。心に絡みついて離れない。

「されなくても、こっちが死んでやるわ…!!」

サリサは睨み付け、多季が落としたナイフを拾おうとするが、アーベルが先にそれを手に取る。


「…なんだ、君は死にたいのか、じゃ、殺してあげない」


「っ…、なんでっ、…あなたの願い通り、消えてやるのに…!!」


にこぉ、とアーベルは玩具を手に入れた子供の様に笑う。

「後追い自殺ってコトでしょう?…そんな風に締め括ろうだなんて許さない。私の前で幸せになるなんて許さない」


足を引き摺りながら、サリサの目の前に出て言う。
あ、そうそう、そう言ってアーベルはクローゼットを開くと、そこからなだれてきたのは、


「アイリス…?!」

「そうだよ、この子の命、惜しくない?」



多季に笑いかける。アイリスの銀髪を掴み、ぺたり、と頬にナイフを突きつけた。

「もちろん、贄にするつもりはあるけど、多季の前で殺すんだったら、一興だよね?」

なんで、こんなに歪んでいるんだろう。クスクス笑いながら、もう一つ取り出したのは赤茶の装丁の本。

「日記帳ー、君のだよねー?…確か、リリィのモノだから君に渡したんだっけ?」


サリサの前に日記帳を見せた。君も日記つけちゃってさぁ、私が作った紛い物の分際で、馬鹿にするように笑う。

「こんなかには私が集めたリリィの魂が眠っているんだ。君の魂をここにいれるとしたら、…どうなるか、わかる?」