本と私と魔法使い

「アーベル様、あなたは…」

扉を開けて、紙をびりびり破いて遊んでいるアーベルを見た。
なに、と多季に笑いかける。


「アルザの気配が消えました」

そう言うと、つまんなさそうにそれで?と多季に聞いてくる。

「あなたが、仕向けたんでしょう…!!」


そう言うと、くるり、と多季を向いた。

「早いねぇ、カンが良いって恐ろしい、」


だから、魔質持ちは侮れないね、といってゆったりと手を叩く音が部屋に響く。冷静さを保ちながら、椅子に腰かけていたアーベルに聞く。


「…どうして、殺す必要があったんです?…どうして…最愛の人を亡くす苦しみを知っているのに…!!」


はて、とアーベルは首を傾げた。そして、大袈裟に笑いこける。

「あれ、は私の造ったただのモノ。…リリィだと思った頃もあったが…所詮紛い物だったよ」


サリサに注いでいたあの愛情は一体なんだったのか。汚いエゴが浮き彫りになっていく。


「あなたは…っ」

バンッ、と扉を開け放つ音がした。振り向くと、サリサが息を乱しながら、立っていた。


「…か」
「おや、こちらが出向く手間が省けたね、わざわざ来てくれるなんて」

「あなたが、アルザを、殺したんですか…!!」

ヒールの音を響かせながら、アーベルに近付いた。
美人は怒った顔すら美しい、そう思わせる気迫。
ナイフをアーベルが多季に切っ先を向けた。多季は思わず、握るが、

「多季…廃棄しろ」

「……せん」


多季は声を出した。つん、とどこかが痛む、苦しい。