本と私と魔法使い

「よく考えてくれ…」


くっくっくっと喉の奥を鳴らして笑った。
風が強くなったようで、窓を吹き付ける。雨も降りだした。
今夜は嵐になりそうだ。

―…


「気付いたのね」

短くサリサは呟いた。
「逃げてください…、どうか、アイリスも連れ…」

「逃げる…か、それでも、良いのかしらね?」


逃げるというのは、とても簡単で、なんの解決にもならない。
サリサは眉間にシワを寄せた。雨と風が強くなる、不安な気持ちが増幅する。


「アルザと、明日出掛けるわ…、その時までに決めるから…」


疲れきっているのか、髪は乱れ、目にいつものような光がない。

そんな姿も美しい。
それこそが罪だと言うように。


リリィに瓜二つなその姿。彼女の死は彼を狂わせた。そして、彼女の代わりであるサリサが―…


「あなたは…」
「何です?」

「なんでもないわ、」


サリサの言いたかった事が多季には聞こえた気がした。


アーベルに
従うの?

その答えは温かくなった心を冷たくしていく。

逃げる、
なんて無理だと分かっていた。