本と私と魔法使い

「もー、私、寝ますからね!!」

多季は、ぼふっと布団をかぶったアイリスの額に優しくキスをした。

「なんですの?」

「僕は多分、永遠に君が好きだよ。」


アイリスは突然の言葉に、ん?と首を傾げた。楽しそうに多季は笑ってとにかくね、と言葉を区切る。

優しい手が頭を撫でた。


「もし君に嫌われても、裏切ったとしても、」

根底は変わらない。
そういうことなんだ。

その優しい手が消えてしまいそうな気がしてた。彼は水面に浮かぶ影のようで。
留める術がないことをアイリスは知っていた。

ー…

「なぁ、あの二人は…いつから?」


さわさわ風が木を揺らす音がする。低い穏やかな声の持ち主が花瓶に生けられた花に目をやる。

「ここ一年です…」
「お前は、…報告もなしか…」

言われてませんでしたので、そう言って視線を落とした。ははは、と形だけ笑って底なし沼のような目が花からこちらへうつす。
何とも言えない息苦しさに眩暈がする。


「そんなことも分からない馬鹿を側に置いた憶えはないが…お前にはほとほと呆れる。…情でも湧いたか?…どちらにせよお前に責任をとってもらう」


「何でしょう?」

まだバレるのは先だとたかをくくっていたが、思ったより早い。背中にじっとりとした汗が伝う。


「廃棄しろ…あれを。もう用はない。」

「っ!!…廃棄、ですか…」

「出来ないか、…出来なければ、他の者が廃棄するだけだ…なんら変わりはない。…そしてお前への罰として…そうだな、アイリスを次のリリィを作るための贄にしようか」

「!!」

多季の顔を見て楽しそうに笑う。虫一匹を殺せないような顔をして、話すのは生きている人間を殺すお話。