本と私と魔法使い

多季の様子に首をひねりながら、サリサは何の気なしに扉を開いた。アーベルはまだいないはず。ぎっ、という音がして、アーベルの匂いが流れこんだ。


「…!!」


目の前に広がる部屋の異様さに息を飲んだ。

な、にこれ。

思わず一歩あとずさる。


「リリィ、見ちゃだめじゃない」


耳もとでしたアーベルの声にびっくりして、ひっ、と喉の奥が鳴った。


「あ、…あたし…」

「恥ずかしいな…。…君に会いたくて、ずっと、ずっと待っていたんだ、この部屋で」


鼻筋のとおった、均整のとれた顔が歪む。
なんで、こんなに気味が悪いの。

片足が悪いから引きずりながら、サリサに近づき、口づけをする。ざわり、と何かの予感がする。


「…あたし、ここにいて、あなたを置いていったことなんてありません!!…あたしは、あなたに造られたんですよ…?」



サリサがそういうと、愉快そうにアーベルが笑う。


「何を言っているの?…君はリリィで、私に会いに来てくれたんでしょう?」

「…っ」



サリサはアーベルを押し退け、走った。
噛み合わない違和感の正体がみえかくれする。

嘘でしょう?
嘘でしょう?