本と私と魔法使い

アルザとサリサ秘密に付き合っている、そのことはアーベルに知られることもなく平穏に過ごせていた。


「サリサ。またアーベル様が呼んでらっしゃいます」

ただ不安な事としては、アーベルがサリサをあの奥の部屋に呼ぶ頻度が増えたことだ。
何が起きているのか、
二人以外知らない。


「すぐ行くわ」

アイリスは、サリサが奥の部屋に消えていくのを見るのがたまらなく不安で、その不安が杞憂であればいいと願うばかりだった。


―…


「リリィ、私の可愛い…リリィ」

サリサは奥の部屋に入ると、ベッドで寝ているアーベルの近くによった。暗闇の中、わずかな蝋燭の光がアーベルの伸びてきた腕を照らした。
じっとりと絡み付くような低い声がサリサの名を呼ぶ。


「ここにおります。」

そう言うと、半身を起こし確認するようにサリサにそっと触れた。光を失ったような、濃いブルーの目がこちらを見た。


「リリィ。私の可愛いリリィ…、」


体の弱いアーベルはこの部屋でほぼ1日を過ごす。この部屋はアーベルの世界でもあるのだ。
若いのに、憐れだ、と誰かは言っていた。


呟くように、サリサは言った。


「あたしは、違います…。あなたのリリィでは…ないんです」


聞こえないのかうわ言のようにアーベルはリリィと繰り返し呼ぶ。

サリサの綺麗な金髪をアーベルがとく、


「綺麗だね、リリィ」

「…お庭にお花が咲きました、アーベル様のお好きな青い花がいっぱい。見に行きましょう?」


「私は行けないんだ、外には、足がまだなおってないんだ」

アーベルの言葉にサリサは悲しく笑った。

「…そう、ですか。…じゃあ、また、ですね」


笑っているアーベルの顔を見た。