本と私と魔法使い

「迎えに来てくれたの?」
こくんと頷き、和泉は力強く私の腕を引っ張り、ひと気のないところへつれていく。


「和泉ー?家反対方向でしょ?」

「黙って」


射るような目に一瞬で私は動けなくなる。
確認するかのように顔を近づけ、次の瞬間噛みつくようにキスをされる。

「ッ…ぃず…」


声を掛けようとしても、キスが私の口を塞ぎ、吐息ばかりが漏れる。頭がぼぉっとして酸欠みたい、と思った。苦しくて生理的な涙が出た。


「…なんで、」
「…ぇ?」


やっとキスが止み、和泉が睨む。

「なんで羽津といたの?」

「ばったり会って、いろいろ励ましてくれただけだよ?」

「顔、近かった」

「なにもなかったよ?」


私の言葉に安心するように和泉はへにゃりと弱々しく笑い、私を抱き締めた。

「なによ、ヤキモチ?…そんなのらしくな」

「そうだよ」


私の言葉より早く和泉の肯定がくる。らしくなく顔を赤くして、

そんな顔は卑怯だ。

急速に顔の辺りがあつくなる、羽津の時とは違う、ひりついた熱が伝染し、めぐる。


「和泉」

「ん?」

「その手は何?」


ひやり、とした冷たい手の感覚が私の服の中にある。
「何しようとしてんのよ!!」

「流されろよ」


無理に決まってるでしょうが!!

私はするりと和泉の腕の中を抜け、


「いい加減、当たり前のようにセクハラすんの止めなさいよ!!」

「好きなのになー」

「誰が誰をよ?」


和泉を指差しながら私が言うと、さらりと言った。

「オレが咲を」



顔がまた熱くなるのを感じた。真っ直ぐ見てた目を背け、和泉にのばした指を引っ込めた。

「…また、そんな冗談を…」

「本当」

「色々、私、初めて過ぎてパニックなんだけど…」