本と私と魔法使い

「じゃあ、いつか、つくってよ」


「えー?そんな至ってフツーの料理しか出来ないよ?」


私が羽津の方へ振り返ると、長い節ばった指先が優しく頬に触れ、不思議な印象を受ける綺麗な顔がまるでキスするかのように近くにきた。


「いつか、ね。…大丈夫、おれは長生きするから。」
「…っ、近いよ?羽津」


甘い囁きなんかではないのに、耳元で切なげに響くその声が私の体温をあげていく。


「もしも、暗闇に迷い込んだら、大切な人の名前を呼ぶんだ…そしたら、きっと―…」



助けてあげられるから、

「どういうこと?」


「きっと、その時が来ればわかるから、まだ駄目だ。早すぎても、遅すぎても、駄目なんだ…。だから、」

羽津にぽんっと背中をおされた。
目の前を見ると、和泉が立っている。

「ほら、委員長が待ってるよ。…じゃあね、おれは帰るよ」

「…え、ちょ、羽津っ」


はい、委員長、と私は和泉に引き渡され、もう一度見たときには、とても遠くなっていて、言葉が聞こえそうになかった。