本と私と魔法使い

「ありがと」

「…悩むときは大概、選択肢が見えてないだけなんじゃないかなーって思うよ。」

羽津はジュースの氷を口にいれ、行儀悪く砕く。


「羽津は…毎回なんか助言してくれるよねー、なんか同い年にみえない」


私の言葉にえー?とおどけたように笑う、羽津。
老成してるみたい。羽津は悪い意味ではなくまわりから浮いている。
それは羽津自身の独特のマイペースさが原因だと思っていたけれど、違うような気がする。うまく説明出来ないんだけど。


「そ…かな。…ま、おれは和泉さんが元気になってくれればいいですよ」

「羽津は、悩んだりしないの?」


「おれは―、悩んでたら…過ぎ去っちゃうから、悩まないよ」

「過ぎ去る?」


にこっと笑って、羽津は

「まわりの時間が早くて寂しい、ってことだよ」

「?」


儚く、今にも消えてしまいそうな笑顔が、揺れて、切なくなってしまったのは気のせいだろうか。



「送るよ、和泉さん」

私が食べ終わると皿を手早く下げ笑って言ってくれる。そのいつもの笑顔に私はほっとした。
さっきの笑顔は本当に消えてしまいそうだったから。

「姉貴、和泉さん送ってくねー」

「はいよー」



お店を出て、私は空気を吸い込む、少しひんやりとしていて外は暗くなり始めていた。


「あー、美味しかったなぁ」

「もしよければ、また食いに来てよ」

「うん、もちろんー。あんなの作れるなんて、すごい魔法みたい。…羽津もなにか作れるの?」


ぽりぽり、頭をかきながら、羽津は恥ずかしそうに言う。


「作るとかは苦手なんだよね、すごい不器用だし…和泉さんは?」

「わりとなんでも作れるよ。上手いかはさておき平均的には」


そう言うと、少し意外そうな顔をした。日頃の行い的に私はあらっぽいところがあるため、驚かれることが多いが、お母さんと二人暮らしの時には家事を分担して引き受けていたから、当たり前のように身に付いた。