本と私と魔法使い

連れられた場所は、家からわりと近い住宅街にあった。

「喫茶店…ドリ?」

白い壁に緑のツタがからまる素敵なお店、屋根は赤というどこまでもテンプレートなお店。この近くに住んでるのに知らなかったな。
というか、何で、連れてこられたのかな?
きょとんとしていると、

「おれんち、喫茶店なんだよねー…」


ガチャリと扉を開きながら羽津が言う。それは初耳だけども。
いらっしゃいませー…、と奥から声がかかり、奥から若い感じの女の人が出てくる。

「って、紀一じゃないのー。どこいってたのぉ…っと女の子まで連れてー、やっだー、なに?その子ー?」


乙女モード全開ですと言わんばかりに私にキラキラした目線をなげかける。ダークブラウンのゆるっとウェーブした髪をポニーテールにしていた、女の人は瞳の涼やかさが羽津に似ていた。


「お母さん…ですか?」

2人の間柄が気になって、思わず聞くと、二人して見合い大爆笑しだす。

「やだー、ちがうわよー。ははっ…アタシがこの子の母親ねぇ……、こんな可愛げのない息子とかこっちから願い下げよ、姉の杏果よ、よろしくねー」

「そうだよ…さすがに、ないわ」


笑いすぎて涙が出てきたのか、杏果さんは目元をふきとった。

「あ、姉貴、あれ持ってきて」

「わかったわよー、ちょっと待っててちょうだい」


羽津の言うあれが思い至ったのかぱたぱたと杏果さんはまた奥に消えて行く。私は羽津に促され近くのテーブルに座る。
それなりに繁盛しているようでお昼時をすぎているがまだ人が新たに入っていた。

「家が喫茶店なんて知らなかった…すごいねぇ」


心からの感嘆をもらすと、恥ずかしがりながらも嬉しそうに笑った。

「コンビニのやつも美味しいけど、ウチのがおいしいからさー、なんか落ち込んでるっぽかったし」

それで連れてきてくれたのね。
ていうか、と私は言った。